CARRÉ PAIN DE MIE ――日本の食パンをパリへ 新たなる挑戦――

18/11/05

ガリッと香ばしいクラスト(皮)が主役のバゲット。ふんわりもっちりクラム(中身)が主役の食パン。バゲットがフランスを代表するパンならば、食パンは間違いなく日本を代表するパンでしょう。幼い頃からパンが大好きだった私の記憶を辿っても、中学生時代までに食べたパンのほとんどは食パンもしくはふわふわの食感のパンでした。そんな私のパン愛を更に加速させたのが、16歳の時に出会った「VIRON」の「バゲット・レトロドール(※1)」。当時の私の「パン」という概念を根本から覆したそのバゲットの美味しさに感激し、お昼ごはん代を少しずつ貯めては、足繁く渋谷・宇田川町に通ったものです。

そんな思い出の「VIRON」が手掛ける食パン専門店「CENTRE THE BAKERY」が東京・銀座に出来たのは2013年のこと。極上の食パンのみを焼く「CENTRE THE BAKERY」は、瞬く間にパン好きはもちろん、多くの人々の心と舌をがっちりと掴み、オープンから5年が経った今でも連日行列が絶えない人気店です。初めてその角食(JPという名前で同店では販売されている商品)を食べた時、そのなめらかな口溶けと上品な甘さにうっとりして以来、私もすっかり同店の食パンの虜になりました。

バゲットを筆頭にハード系のパンや定番のヴィエノワズリといった本場フランスの味で私たちを魅了してきた「VIRON」。日本を代表する食パンの美味しさを追求し多くのファンを持つ「CENTRE THE BAKERY」。

そして遂に、2017年11月、「CENTRE THE BAKERY」のパリ店「CARRÉ PAIN DE MIE(キャレ・パン・ド・ミ)」がオープンしました。店名は、フランス語で「角食」の意味。わかりやすい!

マレ地区のRambuteau通りの角地にある真っ白な外観が美しい同店。パンの本場パリで食パン専門店をつくるにあたり、中心地であり、最先端であることにこだわったそう。地図で見て頂ければわかるのですが、本当にパリのど真ん中に位置する場所です!あえて日本人が少ないエリアで、日本のパンで勝負するという決断。そこにはどんな思いが込められているのでしょうか。

パン部門のシェフ・荘司(しょうじ)さん(左)と、料理部門のシェフ・木村さん(右)

「CARRÉ PAIN DE MIE」でパンを焼くのは、荘司直人さん。アルバイトを探していた20歳の時、採用されたのがパン屋さんだったことがきっかけで、パンの世界に足を踏み入れました。パン屋さんで働き始めたところ、パンづくりが思いの外面白く、どんどんパンづくりにのめり込んでいったそう。その後、個人経営のパン屋さんを経て、2005年、バゲットの美味しさにほれ込み「VIRON」に入社。パン職人としての腕を磨き、丸の内店のブーランジェリー部門のヘッドシェフとして活躍しました。入社以来、13年間 数多くの「フランスのパン」を焼き、多くの日本人に届けてきた荘司さんは、今パリで「日本の食パン」だけを焼いています。

『VIRONのスペシャリテであるバゲットを長年焼きながら、本場フランスのバゲットを食べたことがなかったんです。系列店がパリに出来ると聞き、この機会にフランスのパン文化を現地で学びたいと思いました。同時に、日本の食パンの美味しさをパリの人々にも伝えられたら』本場フランスのパン文化への興味と日本の食パンの美味しさを普及したいという思いが、荘司さんにパリ行きを決意させました。

フランスにも「パン・ド・ミ」(中身のパン)と呼ばれる、日本でいうところの食パンがあります。名前の通りそのふわふわのクラム、つまり中身を楽しむためのパンですが、パリのブーランジェリーでは目立たない存在。バゲットやクロワッサン、カンパーニュが評判の店は数多くあれど、パン・ド・ミが主力の店は(少なくとも私は)聞いたことがありません。「食パン」も、美味しいものはとびきりに美味しいのだ、ということをパリの人々に伝えたいという想いが、「CARRÉ PAIN DE MIE」には込められています。

木のぬくもりと上品でシンプルな内装の店内では、銀座の「CENTRE THE BAKERY」と同様に、好きなトースターを選び、好みのスプレッドをつけ楽しむ食パンの食べ比べや本格的なサンドイッチメニューも楽しめます。日本を離れ1週間以上が経ち、ソースの味が恋しかった私は「とんかつサンド」を注文しました。

「CARRÉ PAIN DE MIE」では北海道・美瑛産のゆめちからを100%使用したCARRE(角食)と、仏・VIRON社のレトロドールとアメリケーノでつくるTORST(山食)の2種類の食パンを焼いています。元々は、日本でのレシピで食パンを焼いていましたが、フランスの人の口に合うように少しずつ改良しているそうです。例えば、エシレバター(※2)を贅沢に使うなど、パリで選べる最良の素材で作る「日本の食パン」が味わえるのが最大の特徴。現地の素材の美味しさを日本のスタイルで食パンやサンドイッチとして楽しめるので、日本からの観光でもぜひ訪れて欲しいです。

客席からは厨房の様子も見えます。こちらは人気メニューのクロックムッシュを仕込んでいるところ。

 

銀座店では連日行列ができていたこともあり、オープン当初はすぐにパリでも受け入れられるのではないかという期待が大きかったそうですが、道のりは決して簡単ではないようで「噛み応えのないふわふわのパンなんてパンじゃない!」というパリの人々の固定観念を崩すべく日々奮闘中だそう。フランスでも徐々に柔らかいパンのニーズも高まっているそうですが、まだまだごく一部の話。

「CARRÉ をパリの朝食の定番に」

新たな挑戦はまだ始まったばかりです。

 

おまけ

海外へ行くといつも痛感するのが、日本のお手洗いはきれいだな、ということ。今回の旅も然り。「CARRÉ PAIN  DE MIE」のお手洗いはパリで一番きれいなのではないかと思うほど快適でした。日本の味が恋しくなったり、きれいなお手洗いに行きたくなったらぜひここへ。(すみません笑)そうそう、2018年11月1日には東京・青山に、「CENTRE THE BAKERY」の食パンが買える新店舗もできたばかり!こちらもぜひチェックしてみてくださいね。

 

※1 バゲット・レトロドール : 仏・老舗製粉会社「VIRON」社の小麦粉「レトロドール」を使った「VIRON」のスペシャリテ。小麦の旨味・風味がダイレクトに感じられる。やうまみが感じられます。

※2 エシレバター : 優れた乳製品の産地として知られるフランス中西部・エシレ村で生産されるクリーミーな口あたりと、芳醇な香りが特長の発酵バター。日本では高級品で、主にクロワッサンやヴィエノワズリに使用されている。