CRAFT BAKERIES in Paris 2018 ④

18/10/22

お目当てのパン屋さんのアドレスを握りしめ、アパルトマンを出発。メトロが便利だけれど、この日は街並みを楽しみながら左岸を歩き、お散歩がてら目的地周辺へ。どの街でもそうですが、電車や車移動で見える景色と、徒歩や自転車移動で見える景色は違って新たな発見があるものです。街の雰囲気も然り。活気があり下町のような印象の右岸中心部に比べ、セーヌ川を渡った左岸は比較的落ち着いていて洗練された雰囲気。14区に到着し、お目当てのパン屋さんを探しますが入口がわからずうろうろ。地図上のピンに翻弄されながらも、近くに面白そうな場所を見つけたので、とりあえず入ってみることに。何も知らずに入ったここが Les Grands Voisins でした。

実はここ、老朽化により2011年に閉鎖された産科病院の跡地を活用した「Les Grands(偉大な) Voisins(隣人たち)」という名のエコヴィレッジでした。パリ市が持続可能な都市をつくる計画を実行するまでの期間限定で、市民に貸し出しており、3.4ヘクタールの敷地と15の病棟を様々な形で再利用しています。ホームレスや移民のための社会活動をする団体や、廃施設の再生に注力する団体を皮切りに、若手の起業家、アーティストや職人も集まるように。今では毎週末、多種多様なワークショップやイベントが開催されその内容も多岐に渡ります。

入口を入ってすぐの建物にはカフェや店舗も充実しており、私は見つけられなかったパン屋さんのことは忘れ、リサイクルショップで宝探しに夢中に!洋服、本、食器などあらゆるものが格安で販売されており、良質なブーツを15€、可愛い刺繍のブラウスを1€でゲットし大満足!カフェや売店では、飲み物や料理が手ごろな値段で楽しめます。広場で思い思いに写生をする若者や、休憩する人々に混ざり一休み。敷地内を散策していると、催し物の告知が至る所に貼ってあり、建物や空間にもストリートアートが散りばめられたり、家庭菜園スペースがあったりと、歩けば何か楽しいことに出会える場所でした。すると、どこからともなく焼きたてパンのにおいが…「まさかこれは!」と、においのする方へ吸い寄せられていくと、ありました、探していたパン屋さん!!ラッキー!!

Boulangerie Chardon は、2017年夏、「Les Grands Voisins 」に仲間入りしたパン屋さん。店名の「Chardon」は、オーナーシェフであるJean Philippeさんの出身地であるフランス・ロレーヌ地方の花である「あざみ」の意味。あざみの花のようにしっかりと土地に根を張るパン屋さんでありたいという思いが込められています。

中へ入ると、いわゆる「ブーランジェリー」のような店内ではなく、厨房に遊びに来たような開放的な空間が広がります。正面には大きなパンが並べられ、黒板には手描きのシンプルなメニュー。大きな粉袋が積み上げてあるのが印象的でした。

 

左側には窯と厨房があり、職人さんたちが作業する姿を間近で見ることができます。訪れたのはお昼頃だったのでパンづくりの作業は終わり、ピザに使うきのこを切っているところでした。内装も白壁に木材が中心で至ってシンプル。作業台であるカウンターの下に自転車や天井に吊るしてある籠も実用的でありながら、お洒落に、でも自然に店内に馴染んでいます。

右側の棚には小麦に関する記事や書籍、麦の穂が飾られており、「Chardon」が小麦にこだわりパンを焼くお店だということが、言葉のわからない私にもすぐにわかりました。後から聞いたところ、この日、店主のJean Philippeさんは農業研修のため郊外の畑に足を運んでいたそうです。彼は近い将来、パリにお店を構えながら、田舎で穀物農家になることを目指しているそう。パンを焼くことだけではなく、その根源である小麦を育てる農業に注力しているパン職人です。都市と郊外を結びながら「Paysan Boulanger(農家パン屋)」としての暮らしを模索しているところだといいます。

 

販売のお兄さんは英語は喋れなかったので、身振り手振りと愛嬌で、買いたいパンを一生懸命伝えました。感じはとても良かったです。ローフ型で色の濃いパンは「SARRASIN FROMENT(そば粉)」のパンで、そば粉の独特の色合いと風味が特徴的。1/4サイズにカットしてもらったのは「GRAND EPEAUTRE(ディンケル小麦)」 のパン。日本でもディンケル(ドイツ語)、エポートル(フランス語)、スペルト(英語)で知られる、代表的な古代小麦を使った素朴なパンです。クリーミーなチーズと合わせて頂くと、パンの酸味とよく合いました。「Cgardon」では、厳選した素材を使い、手ごねでパンを焼いているそうです。

焼き菓子類も古代小麦を使った素朴なものが充実しており、キャロットケーキやマドレーヌ、私の好物でもあるカニストレリ(※1)やライ麦やそば粉を使ったサブレもありました。写真のサブレはそば粉のもので、噛むほどにじんわり味わい深い素朴で美味しかったです。他のお菓子も今度はチャレンジしたい!

ランチに大きなピザを選び、皆さんの写真を一枚撮らせて頂きお店を後にしました。こだわりと信念のあるパン屋さんだと感じたので、もっとお話を聞きたかったけれど言葉の壁…。それでもパンを噛みしめながら、麦畑を想像し、美味しく幸せなきもちになりました。

ちなみに一番左の女性がJean Philippeさんの奥様。

パリ市が進める都市計画の開始のため「Les Grands Voisins」は2018年いっぱいで終了予定。なんだかさみしい気もしますが、ここで生まれた様々な動きはどこかで引き継がれることでしょう。そして「Chardon」もこちらの店舗での営業はその時まで。今はパリ市内で移転先を探しているそうなので、新しい店舗も楽しみですね。

パリ市内にいながら、郊外のパン屋さんのような素朴さとあたたかみがあり、古代小麦を使ったパンが味わえる個性的なパン屋さん「Chardon」に、新しいパリでのパン屋さんの在り方を教えてもらった気がします。

 

AOI

 

おまけ

今回ご紹介した「Chardon」のパンとは真逆の美しきヴィエノワズリの世界。中でも今回感激したのが、パリでも評判のパティスリー「GILLES MARCHAL」のヴィエノワズリと焼き菓子。有名店でシェフパティシエとして腕を磨き、2014年に独立したGilles Marchalさんの作るヴィエノワズリの美味しいこと!くちどけの良さ、上品な甘さ、舌の上に残るバターのふくよかな余韻、サクッとホロッと一口ごとにうっとりしてしまう食感!Gilles Marchalさんも「Chardon」のJean Philippeさんと同じロレーヌ地方出身だそうで、同地方の伝統的な焼き菓子であるマドレーヌも秀逸!持ち帰れることなら何個でも食べたい…。バーからの帰り道、肌寒いパリの街で歩きながら食べたGilles Marchalのシュケットとマドレーヌの美味しさを私は永遠に忘れないと思う。

 

※1 カニストレリ コルシカ島で最も古くから伝わる焼き菓子。フレーバーも多種多様。私は、カタネベーカリーさんで食べて以来ハマり、見つけると必ず購入してしまう焼き菓子です。