CRAFT BAKERIES in Paris 2018① 

18/10/14

2018年9月29日。日本列島を縦断した猛烈な台風24号チャーミーの脅威を沖縄で正面から受け止め、停電・断水・水漏れというトリプルパンチと戦いながら大自然の力の凄まじさに打ちひしがれた数日間。1か月程前に航空券を取り、約6年ぶりのパリを楽しみにしていた私。出発日はまさにこの日、9月29日でした。旅の計画は白紙に戻ったと諦めました。が、幸か不幸か、30日の早朝、友人たちの協力と強運(と思いたい)に後押しされ、私は那覇空港を飛び立ち、同日夜、パリに到着したのです。

今回の旅の大きな目的は2つ。「今のパリのパンを知ること」「パリ在住の日本人ブーランジェ・稲垣信也さんに会うこと」。

シャルル・ド・ゴール空港に19時過ぎに到着。ロストバゲッジ疑惑で1時間ほど足止めをくらったものの、無事にスーツケースを引き取り、タクシーで20区にあるカジュアルレストラン「LE GRAND BAIN」へ直行。路地裏にある小さなお店の前には、席が空くのを待つ人の姿もあり、活気が溢れていました。

この日は友人の誕生日祝いのディナーだったので、早速乾杯!!かれこれ2日位台風の影響でひとりぼっちのバナナ生活をしていたため、改めて大好きな人たちと食卓を囲む幸せを噛みしめました。新鮮な素材をシンプルに味付けた料理はどれも美味しく、一緒にサーブされたパンもまろやかな酸味がたまらず、すぐおかわり。サラミと合わせても、チーズと合わせても相性抜群。バーカウンターが真ん中にある店内は小さいけれど、天井が高いため開放感があり、気取らない雰囲気と気さくな接客も良かったです。

「美味しいパンとチーズとワインがあればそれだけで幸せ!」を文字通り体感した夜でした。

後から知ったのですが、実は「LE GRAND BAIN」はパンの美味しさが評判を呼び、2018年のはじめにレストランの斜め前にパン屋さんをオープンしていました。これは行かなきゃ!ということで、パリ滞在中に訪問。パン屋さんの名前は「LE PETIT GRAIN」。スタイリッシュな外観で、窓ガラス越しに粉袋やバヌトン(※1)が見える風通しのよいパン屋さんです。

パン屋を営むのはレストランのオーナーシェフでもあるEdward Delling-Williamsさん。ロンドンからパリに移り住み、人気ビストロ「Au passage」を経て、Belleville(ベルヴィル)に自身の店「LE GRAND BAIN」をオープンしたそうです。

ブーランジェリー「LE PETIT GRAIN」は、オーガニックの素材にこだわり、ルヴァン種で焼くパンを基本としています。私がレストランで食べたパンは「Levain Blé」という食事パンでいわゆるパン・オ・ルヴァンでした。酸味が強すぎず、小麦の風味ははしっかり感じられ、穀物のえぐみはなし。クラストはこんがりと香ばしく焼かれ、クラムは目が詰まっていてむっちり、しっとり。やさしく食事に寄り添うパンでした。

この他にも、店内にはアメリカ西海岸のサワー種でつくる大きなカントリーブレッドを髣髴とさせるような、ライ麦パンやエポートル(※2)全粒粉のパンなど武骨な食事パンが並んでいました。

また、フォカッチャやハード系のパンだけでなく、クロワッサンなどのヴィエノワズリもサワー種で作っているようで、驚きました。パン部門、ペストリー部門ともに女性の職人さんが活躍されているそうで、なんだか嬉しく思います。(オープン当初はパン部門の担当は日本人女性だったそうです。)

素材やパン作りのこだわりだけでなく、無駄な消費をなくし、廃棄物を出さないこともお店を営む上で意識している大切な要素の一つなんだとか。プラスチックは使わず、できる限りリサイクルできる素材を選ぶそう。そういえば、日本だったら美しいデニッシュをプラスチックのケースに入れてくれることが多いけれど、このお店はデニッシュやケーキ類は紙ナプキンで簡単に仕切りをし、紙製のケーキボックスに入れてくれました。パリでボックスにヴィエノワズリを入れてくれるなんて!と、そっちに気を取られていましたが、ヴィエノワズリとお客さんへのやさしさに加え、環境も配慮した選択だったのですね。

この日のデニッシュは洋梨とくるみ。サクサクのデニッシュからは芳醇なバターの香りがふわり。クリームの量も絶妙で、あっという間に食べきってしまう美味しさ。この他にもむっちり生地のシナモンロールや、スパイスが効いたキャロットケーキも頂きましたがいずれも好みの味わいですっかりお店のファンになりました。

最後になりましたが、私はフランス語が話せないので、スタッフのお姉さんが英語が流暢で感じも良かったのでとても助かりました。フランスのパン屋さんはどこも列に並び、自分の番が来たら急いで注文し、なんだかバタバタせわしないのが常なので、ここの空気感はそんな慌ただしさとは少し違って心地よかったです。

レストランもパン屋さんも、またパリに行ったら立ち寄りたいなと思っています。

しばらくパリのパン日記を思いのままに綴っていこうと思いますので、どうぞお付き合いください。

 

AOI

 

※1 フランス語:banneton とは、パンの発酵に用いる籐の枝を編んでつくった籠。

※2 フランス語:Épeautre は、古代麦でディンケル小麦(ドイツ語)、スペルト小麦(英語)のこと。