古代小麦のお話し会@宗像発酵研究所

18/02/04

こんにちは。

私は今、沖縄にいますが、こちらも寒い日が続いています。(もっと寒い場所の皆様、ごめんなさい。)早くあたたかい季節になって、パンピクニックしたいです。

先日、昨年誕生したばかりの宗像発酵研究所で開催された「古代小麦のお話と本格カレーの会」に参加してきました。現在、宗像堂(沖縄県)、CRAFT BAKERIESでも取材させて頂いた小麦農家・大地堂(滋賀県)、山口大学の丹野研一先生は共に古代小麦の育種研究に取り組んでおられます。その中心人物である考古植物学者・丹野研一先生の日頃の研究や育種についてのお話を聞き、旅する料理人・小林香里さんの本格カレーと宗像堂のピタパンを味わうという、なんとも贅沢な時間を過ごしました。

 

ちょっとニッチな会にも関わらず、小麦を育てる農家さんや料理人の方など20名以上の人が集まり、お話会がスタート。古代小麦について、このような形でしっかりとお話を聞くのは初めてだったので、とても勉強になりました。

 ↑こちらは小麦のイメージ写真。大地堂さんのディンケル小麦。

 

丹野先生は小麦の遺伝子型を辿り、DNA分析で品種を調べていましたが、その限界を感じ、考古学へ転向するという異色の経歴の持ち主。(言葉で説明すると短いですが、凡人では到底行きつけない領域で活躍されている稀有な方であります。)

私は、恥ずかしながら「小麦考古学」と聞いてもあまりピンときませんでした。簡単に言うと、丹野先生は遺跡から出てきた植物(土から採取した炭化種子や炭化材)を調べることで、その小麦が「いつ、どこに」存在したものかを明確にし、集めたデータを研究し、日本での新しい小麦の育成にも尽力されています。

 

普段私たちが食しているパンや麺用の小麦は、野生種ではなく人間が作り出したものなんだそう。人間が育てた場所で自然に生まれたこれらの小麦と、野生種の小麦はそもそもの「種(しゅ)」が違うということを初めて知りました。探さないと出会えないほど貴重だそうですが、今でも南東トルコにはエンマー小麦の自生地があるそうです。

 

シリアの製粉所の様子や現地の小麦文化のお話など興味深い内容ばかりだったのですが、中でも心に残ったのが「農耕の起源」のお話。

約11000年前に農耕が始まったことは、すなわち人類の定住生活の始まりを意味します。歴史の試験に頻繁に登場した「メソポタミア文明」が約5000年前に誕生したので、それよりもはるか昔に農耕は誕生していたんですね。

発掘調査のデータから、西アジア各地の人々が数千年をかけて在地の野生植物を栽培してきた結果として農耕が成立したことがわかり、丹野先生のチームは「農耕は3000年以上をかけてゆっくりと進行した」という内容の論文を発表しておられます。例えば、野生種の小麦は穂が自然にバラバラになり落下し種子を飛ばしますが、穂が自然に落下しない、小穂非脱落型の栽培種が発掘調査で見つかったということは、人の手が加わったこと、つまり農耕が存在した証になるといったお話がありました。

最先端の技術を駆使しながら、過去の遺物を紐とき、その根源の在り方や謎を明らかにしていく、「考古学」はなんて浪漫があるのだろう、と思わずには居られません。

 

農耕起源地である西アジアを中心に発掘調査をし、野生の植物から種を取り育種をしている丹野先生。長年の研究が実を結び、早生のデュラム小麦の育成に成功しました。早生(わせ)とは、植物の実が普通より早く出来ることで、この小麦の場合は6月初旬に収穫(播種は11月上旬から可能)ができます。更に早生なため、赤カビ病や穂発芽の被害も少ない傾向にあるそうです。他にも、丈が低く倒れにくかったり、タンパク質が多く含まれ生地がつくりやすいなどの特徴もある新しいデュラム小麦です。

実は私、昨年大地堂さんの畑でこのデュラム小麦の試験的栽培の様子をみていたため、なんだかとても感慨深い気持ちになりました。

デュラム小麦ときくと、パスタのイメージが強いですが、パンへの使用も含めてこれからの展開がとても楽しみです。沖縄でもこの秋には種を播くようで、県産小麦の生パスタやデュラム小麦を使ったパンが味わえる日もそう遠くは無いようです。

 

そうそう、最後になってしまいましたが、この日いただいたピタとカレーもとっても美味しかったです!

↑宗像堂のピタ。噛むほどに味わい深くとまらない。もちろん、おかわり。

 

↑スパイスたっぷりのチキンカレーと豆カレー

 

美味しく楽しく学べる貴重な機会をありがとうございました!

世界的に古代小麦が注目される中、今後もその方向性は強まっていくような気がしています。日本でも古代小麦の研究がすすみ、国産小麦の品質も向上し、日本の小麦全体がボトムアップしてきて、農家さん、パン職人さんだけでなく、食べ手も小麦の世界に興味を持つ時代になってきているなぁ、と感じます。これからの小麦の世界がますます楽しみです。

 

ちょっと長くなりましたが、お読みいただいたみなさま、ありがとうございます。

良い一週間になりますように。

 

Aoi