2012年に群馬県太田市に店を構えた「発酵所」。向かいには工業高校、となりには畑が広がるのどかな土地だ。オーナーシェフの松岡秀さんは、元美容師。自身の身体に向き合い「食べること」を改めて考えた時、日本人の身体に馴染みが良く、低温長時間発酵で消化のよいパンをつくることに行き着いた。まずは自分が食べて、気持ちが良いと思えるものをつくる、そんな感覚が秀さんのパンには表れていると思う。
「発酵所」の生地は驚くほどゆるゆるだ。ばんじゅうから流れ出すリュスティック(※現在は「トナリ」の名称)生地は、まるでアメーバのよう。パンになると、炊きたてのお米やお餅を連想させる、なめらかで不揃いな気泡をもつ艶やかなクラムが生まれる。「リュスティック(トナリ)」は、和の素材や料理との相性も良い。和食好きの秀さんらしい、「発酵所」のいわば白米のようなシンプルなパンだ。
「パンもお店も僕自身も、日々変化していく姿を楽しんでもらえたら。」と、秀さん。その言葉通り、2016年秋にリニューアルオープンし、「発酵所+ぱんのとなり」に生まれ変わった。今までの良さを生かしながら新しい挑戦をお店中に散りばめたつくり。外観、内観の変化はもちろん、「ぱんのとなり(カフェ部門)」が加わり、パンに対する想いも大きく変化したそう。カフェが出来、安心できる素材で作られた日替わりのお惣菜(となり)をパンと共にゆっくりと味わうことができるようになった。
気取らなくて、新しい。縛られないし、とらわれない。だから「発酵所」は面白い。
※店内写真は2016年夏に撮影した旧店舗のものです。