オレゴン州・ポートランドの注目エリア・ディヴィジョンストリート沿いに「リトル・ティー・アメリカン・ベイカー」はある。店に入るとまず目をひくのが壁に大きく掲げられた「flour,science,hands & heart」という言葉。ここでつくられるパンのすべてを物語る、シンプルで真っ直ぐなメッセージだ。
店名にある”T”は、オーナーシェフベーカーであるティムさんの頭文字から来ている。ニューヨークで料理を学んでいたティムさんだが、趣味で始めたパンづくりがいつしか日課になりパンの世界にのめり込む。「パンづくりのすべての工程に魅了されたんだ」と、笑うティムさんはニューヨークの料理学校を卒業後、ポートランドに移り住みベーカリーでの9年間の修業を経て、自らのお店をオープンした。ここポートランドのコミュニティの豊かさにほれ込んだのが、この土地で自分のお店を持った最大の理由だと言う。
ここでは、小麦と水から起こすサワードウに加え、ルバーブなど季節の素材から酵母を起こしパンを焼く。アメリカでは自ら酵母を果実や野菜から起こし、それを日々のパンに使うベーカリーは珍しい。時間も手間もかかる上に、酵母の管理にも技術と愛情が必要だからだ。彼はパンづくりだけでなく、パン職人にも愛情を注ぐ。今のお店の規模感(18人のスタッフが働いている)が気に入っており、これ以上大きくするつもりはないと言う。仕事以外の時間の充実がパンの質や働き方にも繋がっていると考え、彼らの生活にも気を配る。家族のようなスタッフとともに、地域のお客さんのために毎日パンを焼く。
そんな「リトル・ティー・アメリカン・ベイカー」は、25店舗以上のレストランにパンを卸しており、地域のシェフたちからの信頼も厚い。パンを通して、生産者、つくり手、消費者が自然と繋がり、人の輪が広がり、新たなパンの楽しみ方が生まれている。コミュニティの中心にある唯一無二のベーカリーは今日も街の人々で賑わっている。