中国地方の秀峰・大山を真正面から眺めながら、パンづくりに勤しむ人がいる。清らかな水と空気、そして愛情を込めて育てた自家製酵母でコウボパンを焼く、西村公明さん。以前は企業で働いていた西村さん夫妻は、「いつかは自然が豊かな場所で自然をいかした仕事がしたい」と、考えていた。脱サラをし、大山に抱かれるようなのびのびとした環境に誘われるように、2006年にこの場所に移住した。
小麦は、地元の契約農家でつくった「ニシノカオリ」を中心に、国産小麦を使用。以前はいろいろな素材から酵母を起こしていたが、今はオーガニックレーズンを使った酵母を軸に、旬の食材で起こした酵母を使い期間限定でパンを焼く。水と果実だけでゆっくりと発酵させる酵母には、つくり手の気持ちが反映される。パンづくりを始めて15年。「つくり手が過ごしやすい環境で生活していることは、酵母にとってもいいことだと思う。」と、西村さんは微笑む。「あぁ、この人が焼くパンだから、身体にすっと馴染み、やさしいのだなぁ。」と、しみじみと思う。
パン工房の隣には、自家製酵母を使った手料理が楽しめるカフェもある。切り盛りするのは、奥様のあゆみさん。パンをつくるには発酵の段階が進み過ぎてしまった酵母も、あゆみさんの手で美味しい食事の一部になる。もちろん、焼き立てのコウボパンも一緒に楽しめる。
心地の良い場所で、パンを食べ、食事をし、澄んだ空気を吸い込む。時間を忘れて「小さじいち」で過ごすひとときは、私たちをとてもあたたかな気持ちにしてくれる。
