埼玉県北浦和。「畑のコウボパン タロー屋」が店を構えるのは、駅から離れた閑静な住宅街。営業日は週に2日のみ。それでも、ご近所さんはもちろん遠方から足を運ぶお客さんも多いのは、ここにしかないパンがあるからだ。
黒板にかかれたおしながきをみると、すべてのパンの頭には必ず酵母の名前入っている。これは、店主・星野太郎さんのパンづくりは、「素材ありき」であるためだ。季節の流れに沿って酵母を起こし、そこからパンが自然と生まれる。素朴な疑問をきっかけに100種類以上の酵母を起こし、その世界に魅了された太郎さんにとって、パンを焼くことは目標や目的ではなく、「素材のもつ魅力を、酵母を通して表現する」手段にすぎない。
タロー屋のみなさんが口をそろえておすすめだという酵母がある。八重桜の花と若葉からつくる春の酵母だ。日本を代表する豊かな香りさえも、太郎さんはパンに閉じ込める。季節の移り変わりを、パンを食べることで感じられるなんて、なんて贅沢なのだろう。5感を研ぎ澄ませながら、全身で味わいたい。