“地元の食材を使った、ちょっと幸せになれるパン”をテーマに2016年1月にオープンした「soil by HOUTOU BAKERY」。新しいながら、遠方からもパン好きが訪れる人気店だ。
シェフ・ブーランジェの小森俊幸さんは製菓専門学校を卒業後、横須賀の地で学校給食や購買パン事業で知られる「法塔ベーカリー」を運営する有限会社モリ・ワールドに入社。3年従事した後、大阪の名店で3年修業を積む。再び会社に戻るのだが、そこからまた3年、工場勤務の日々だったというから驚いた。ホールセールなどのためのパンがほとんどだったため、餡子やクリームを包む作業を時間との勝負で量をこなしていたという。「そんな毎日だったので1分間の包あん競争だったら負けないですよ(笑)」と気さくで明るい小森さん。
soilのパン棚には50種類ほどのパンが並ぶが、新しいパンをつくりたい欲求に駆られて、今でも種類が増えているのだそう。子供たちが喜びそうな小ぶりなクリームパンやメロンパンなどのなつかしパンから、季節の果物をのせたクロワッサンやデニッシュ、色とりどりの野菜や海の幸を使ったフォカッチャやタルティーヌ、カンパーニュやバゲット、サンドウィッチ。
旬の味覚いっぱいのsoilのパンは、野菜そのものの味を教えてくれる。
パンの種類の多さもそうだが、使う食材の下処理の手間は決して楽な仕事ではない。美味しい地元の食材を知ってもらいたいという、確固たる想いがメニューを見るだけではっきりと感じられる。ミネラル豊富な土壌と大きな空の下でのびやかに育つ横須賀野菜は、地元の生産者グループ「若耕人’s(わこうず)」や直売所である「すかなごっそ」「安田養鶏場」で仕入れをしている。
小森さんは「パンはもちろんですが野菜には本当に気を遣っています」と話す。その日の仕入れを確認してから、つくるパンを決める。焼く・蒸す・茹でるを全て試すという。野菜の特徴に合わせて塩気や切り方も細かく考える。野菜の味が薄ければ厚く切るし、濃ければ薄く切る。まるで料理人だ。
そうは言っても、特に大事にしていることはパンの成形にあるという。「食感は成形でつくる」という教訓を胸に、鍛錬した心と手でパンと向き合う。内層、香り、味のバランスを考えられてつくられるsoilのうつくしいバゲットやロデヴはぜひおすすめしたい。
酵母は小麦から起こしたものを使う。パンに使用する小麦は現在9種類。もちろん地元で育つヨコスカ小麦も取り入れている。「小麦の使い方も、もっと追求していきたい」と話す小森さんは、パンをつくることへの意欲とパンへの愛に溢れた、生粋の職人肌。
「美味しい」は2種類あるのだと思う。目で見て、匂いを嗅いで味を想像させる「美味しい」と実感の「美味しい」。小森さんのつくるパンは、その両方でめいっぱいの幸せをくれる。
訪れる度に、横須賀の味やパンの表情を「もっと知りたい」と思えるパン屋さんだ。soilの美味しい可能性はまだまだひろがっていく。